「社会人基礎力」の測定尺度について
管理人Oです。
前回の私の投稿から続く形で、今回も「社会人基礎力」に関する内容を投稿させていただきます。(参照:「人生100年時代の社会人基礎力」について - 大学職員の生活改善ねた)
今回は、社会から求められる能力として示される「社会人基礎力」の習得に着目して、大学において学生の学習効果を測定する尺度を、日本国内の大学教職員方によって発表された研究等の情報に基づいて紹介いたします。
4領域15項目からなる測定尺度の改訂版(西道,2011)
西道(2011)の試みに、「社会人基礎力」の概念的定義をもとに測定すべき指標を整理した結果策定された「4領域15項目からなる測定尺度」を、クラス単位で効果測定を行うことを目的としたものから、個人単位で測定するための尺度に改定する試みがあります。
当初の「4領域15能力からなる測定尺度」では、以下のとおり4つの領域に関する項目として15項目が挙げられています。
前に踏み出す力
- 主体性
- 働きかけ力
- 実行力
考え抜く力
- 課題発見力
- 計画力
- 創造力
- 情報収集力
伝える力
- 発信力
- 説得力
- プレゼンテーション力
チームで働く力
- 傾聴力
- 柔軟性
- 状況把握力
- 規律性
- 職業理解力
引用 (西道,2011)
これらの測定項目に、項目数を3倍とすることを目的に修正・追加が行われ、最終的には次のとおり45項目が設定されることとなりました。
主体性
- 指示を待つのではなく、自らやるべきことを見つけて積極的に取り組む力
- 自分の果たすべき役割と責任を自覚し、積極的に取り組む力
- 自分の個性や興味・関心にもとづいて、目の前の課題に取り組む力
柔軟性
実行力
- 自ら目標を設定し、粘り強く行動する力
- 提案するだけでなく、自らの目の前の対象を動かす力
- 失敗をおそれず、行動に移す力
情報収集力
- 自分に必要な情報を得るために、あらゆるメディアを活用する力
- 自分に必要な情報や資料を的確に探し出す力
- 得られた情報を、多面的・多角的に整理する力
プレゼンテーション力
- 限られた時間の中で、情報や主張を、わかりやすく聞き手に伝える力
- 調べたことを伝える際に、効果的な手段やメディアを用いる力
- 情報を伝えるために、必要な創意工夫を加える力
職業理解力
- 学んだことや体験したことを、職業や生活とつなげて考える力
- 日々の体験を通して、社会の規範やマナーを理解する力
- 周りの人たちの仕事から、働く意義や大切さを理解する力
創造力
- 既存の発想にとらわれず、解決方法を工夫して考える力
- 未知の分野にまで思考を広げることで、新しい解決方法を導き出す力
- あらゆる可能性を再検討することで、解決方法を再発見する力
説得力
- 自分の言いたいことを、わかりやすく、効果的に伝える力
- 自分の話に信頼感をもってもらえるように話せる力
- 相手の立場に配慮しながら、自分の主張を伝える力
働きかけ力
- 目標を達成するために周りの人に呼びかけて、周囲の人を動かす力
- 人を巻き込んで提案する力
- 立場や意見の異なる人に働きかけて、動かす力
傾聴力
- 話しやすい雰囲気をつくって、相手の意見を引き出す力
- 相手の言動を観察し、意見や主張を正確に聞き取る力
- 自分が分からないことを聞き流さずに、相手に質問して確認する力
発信力
- 自分の考えをわかりやすく整理して、相手に理解してもらえるように伝える力
- 相手にとって良くないことでも、自分の意見を確実に伝える力
- 仲間内にしか伝わらないような言葉で話したりせず、誰もが理解できるように話す力
状況把握力
- グループの中で自分がどんな役割をすればよいのかを理解する力
- お互いの個性や能力を理解し、それが発揮できるような関係を築く力
- 周囲の人々や物事との関係を理解するために積極的に働きかける力
課題発見力
- 目標を達成するために解決すべき問題を見つける力
- 見過ごされがちな問題を発見する力
- 正解不正解が曖昧な問題の解決策を見いだす力
計画力
- 目標を達成するための手順や方法について優先順位を決定する力
- 将来設計に基づいて、今取り組むべき学習や活動を理解して準備する力
- 課題を解決する複数のプロセスを明確にし、最善のプランを立案する力
規律性
- 集団や社会生活の規則やルールを守って適切に行動する力
- 状況に応じて、自らの発言や行動を適切に律する力
- 他者と共有する「空気」を読んで、自分の行動を修正できる力
引用 (西道,2011)
上述の45項目を利用して4つの領域「前に踏み出す力」「考え抜く力」「伝える力」「チームで働く力」に関連する項目を主因子法を用いて分析した結果、「4領域15項目からなる測定尺度」は、最終的に40項目で表されるよう改定されました。
その内容を引用すると、次のとおり各領域と項目が信頼のある測定尺度として結論付けられています。
前に踏み出す力(因子得点順)
- 提案するだけでなく、自ら目の前の対象を動かす力
- 指示を待つのではなく、自らやるべきことを見つけて積極的に取り組む力
- 目標を達成するために周りの人に呼びかけて、周囲の人を動かす力
- 人を巻き込んで提案する力
- 立場や意見の異なる人に働きかけて、動かす力
- 自分の果たすべき役割と責任を自覚し、積極的に取り組む力
- 失敗をおそれず、行動に移す力
- 自分の個性や興味・関心にもとづいて、目の前の課題に取り組む力
考え抜く力(因子得点順)
- 課題を解決する複数のプロセスを明確にし、最善のプランを立案する力
- あらゆる可能性を再検討することで、解決方法を再発見する力
- 既存の発想にとらわれず、解決方法を工夫して考える力
- 未知の分野にまで思考を広げることで、新しい解決方法を導き出す力
- 正解不正解が曖昧な問題の解決策を見いだす力
- 目標を達成するために解決すべき問題を見つける力
- 目標を達成するための手順や方法について優先順位を決定する力
- 得られた情報を、多面的・多角的に整理する力
- 将来設計に基づいて、今取り組むべき学習や活動を理解して準備する力
- 見過ごされがちな問題を発見する力
- 自分に必要な情報や資料を的確に探し出す力
伝える力(因子得点順)
- 自分の言いたいことを、わかりやすく、効果的に伝える力
- 限られた時間の中で、情報や主張を、わかりやすく聞き手に伝える力
- 自分の考えをわかりやすく整理して、相手に理解してもらえるように伝える力
- 自分の話に信頼感をもってもられえるように話せる力
- 仲間うちにしか伝わらないような言葉で話したりせず、誰もが理解できるように話す力
- 情報を伝えるために、必要な創意工夫を加える力
- 相手の立場に配慮しながら、自分の主張を伝える力
- 調べたことを伝える際に、効果的な手段やメディアを用いる力
- 相手にとって良くないことでも、自分の意見を誠実に伝える力
チームで働く力(因子得点順)
- お互いの個性や能力を理解して、それが発揮できるような関係を築く力
- グループの中で、自分がどんな役割を担えばよいのかを理解する力
- 状況に応じて、自らの発言や行動を適切に律する力
- 他者と共有する「空気」を読んで、自分の行動を修正できる力
- 相手の言動を観察し、意見や主張を正確に聞き取る力
- 話しやすい雰囲気をつくって、相手の意見を引き出す力
- 固定観念にとらわれないで、相手の立場や意見を理解する力
- 周りの人たちの仕事から、働く意義や大切さを理解する力
- 周囲の人々や物事との関係を理解するために積極的に働きかける力
- 学んだことや体験したことを、職業や生活とつなげて考える力
- 既存のやり方やマニュアルにとらわれない考えを受け入れる力
- 自分が分からないことを聞き流さずに、相手に質問して確認する力
引用 (西道,2011)
所感
40項目の測定尺度を活用し、例えば、企業へのインターンシップや、地域社会での課題解決型学習プログラムへの参加前後での習得度合いの変化を測定することで、学生が「社会人基礎力」を身につけられたか客観的に測ることができると期待できますし、実際に活用されているようです。
大学においても「社会人基礎力」養成が求められていることを考慮すれば、単純に学問に関する知識習得の度合いを測ることに加え、西道(2011)が示したような測定尺度を用いて、大学のカリキュラムを通して、学生が「社会人基礎力」を十分に学ぶことができているか、また、社会が求める人材が輩出されているか検証することは、大学が社会に貢献するうえで必要なことのように考えられました。
引き続き、高等教育に携わるということを、さらに広い視野で考えられるよう情報を収集し、私なりに嚙み砕いて発信していきます。今回も投稿をお読みいただきありがとうございました。
参考文献
西道実(2011). 社会人基礎力の測定に関する尺度構成の試み プール学院大学研究紀要. 51. 217-228.
【管理人O】