大学職員の生活改善ねた

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留学のあり方

皆様、はじめまして。この度、本ブログ発信チームに加わった管理人O(おー)と申します!
大学職員の観点から、読者の方々に少しでも面白いと思っていただけるような情報を発信していきますので、今後ともよろしくお願いします。

さて、初投稿の今回は、「留学のありかた」と題して、オンライン留学について話題を提供いたします。
コロナ禍の影響によって、わが国のみならず、世界各国において人々の往来が多少なりとも制限される事態となりました。
そのような状況の中、国際教育交流の担当者は、学生の学びのメインステージである「越境を伴う留学」と同様の学習効果を生むプログラムを、どのように実現するか創意工夫しています。
ここでは、留学プログラムの企画・運営等に携わっている経験から、留学にまつわる動向を踏まえ、オンライン留学の感想、将来への期待について、私個人の所感を共有させていただきます。

留学とは?

私は入職から現在に至るまで留学関連業務に携わっていますが、お恥ずかしながら厳密な「留学」の意味を知りませんでした。
そこで、広辞苑で言葉の意味を調べると、「よその土地、特に外国に在留して勉強すること」が定義として記されていました。
本記事では、この広辞苑の定義をもとにオンライン留学について掘り下げていきます。

コロナ前の状況について

わが国では平成25年の閣議決定をもとに、文部科学省によって『2020年までに留学生交流を倍増させる』という、留学生政策の基本方針が打ち立てられました。
この基本方針に関連する評価指標は、次のとおりです。

  • 日本人の海外留学については、大学生等は12万人、高校生等は6万人を目標とする。
  • 外国人留学生の受入れについては、30万人を目標とする。

この政策・評価指標をもとに各教育機関、民間企業が留学機会の提供等に取り組んだ結果、2019年度には、大学等が把握する日本人の海外留学者数の合計は約10.7万人、受入外国人留学生数は約31.2万人に上りました(参照:「外国人留学生在籍状況調査」及び「日本人の海外留学者数」等について:文部科学省)。
この数字を見ると、新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るう前は、留学に関する目標達成具合は順調だったと言えます。

コロナ禍の影響

2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の拡大とともに、国際移動を伴う一般的な留学プログラムの実施に暗雲が立ち込めることとなりました。
私の所属大学では、海外インターンシップへの参加を卒業要件とするコースもあり、学生の国際交流機会の担保をどのように実現するか議論が重ねられました。
結果として、派遣・受入の双方において、短期・長期に関わらず2020年度のすべての留学プログラムが中止となり、2021年度も、代替策としてオンライン留学プログラムの開発・実施が推し進められています。

私自身、全国の高等教育機関の取組みを把握しているわけではありませんが、文部科学省公表の情報を拝読する限りでは、多くの教育機関が、海外へ学生を派遣する、又は海外から学生を実際に受け入れるという形式の従前の留学プログラムから、ZOOM等のビデオ会議ツールを活用したオンライン国際交流の実施へと、形態を変革させているようです(参照:検索結果:文部科学省)。
また、学生の国際的流動性に対してもたらされた新型コロナウイルス感染症の影響に関する論文では、世界規模で大きな傾向にあった現地留学の機会が大幅に減少し、その結果、将来的にオンライン実施と現地留学を組み合わせた教育実施方法が高等教育における国際教育交流のニューノーマルになりうるとの見解が示されています(Yildirim et al., 2021)。 
このように、留学を取り巻く環境においてはコロナ禍の影響が非常に大きく、世界規模で留学プログラムのオンライン化が求められていると言えるでしょう。

留学のカタチ

これまでの情報を振り返ると、今後の留学の在り方として、実際に現地に行くことなくオンライン上で学習を行うことも、選択肢の一つに加えられることが予想されます。
実際、日本国内でも、単位認定を可能とするオンライン留学制度を整備している大学もあるようです(参照:オンラインで「留学」、単位もOK 東北大と立命館大の取り組み|コロナ時代の「留学」|朝日新聞EduA)。

私の勤める大学では、参加費を一部または全額援助する形で、海外協定校提供のマンツーマン指導を受けられるオンライン英語学習プログラムへの参加を募ることもしております。
このオンライン英語学習プログラムに参加した学生の一人は、日本にいながらでも生きた英語を学ぶことができ、それにもかかわらず経済的・時間的負担が少なくて済むことを、嬉々として私に語ってくれました。

一方で、国際教育交流を担当する教員から、海外にいる学生はオンライン疲れしている、と驚きの所見を聞いたことも事実です。
その教員は、ある時授業の一環として、欧州にある海外協定校の学生と大学生活の違いをテーマにオンラインで意見交換する場を設けたそうですが、意見交換の中で、海外学生たちはロックダウンにより授業がすべてオンラインに移行しており、ほとんどの学生がZOOM疲れに陥っていると嘆いていた、と教えてくれました。

今日の留学には課題もありますが、とある記事には『国際教育プログラムの共通目標、すなわち、自身が選ぶ専門分野において国際的視野・価値観を理解し、とりわけ、相互に繋がりを持つ世界の中で生活を営み、仕事で成功するために必要な文化間交流スキルを有する生涯学習者を輩出することには変わりはない。どのようにその目標を達成するかが変わっており、単に国際移動を伴うプログラムだけがその目標を実現する唯一の方法ではなく、今は、国際移動に頼らない新たな戦略や方法を模索し、試験的に導入する面白い時期にある。』と前向きなコメントが掲載されています(参照:Making international education about more than mobility)。
これらの情報や私の経験から、コロナ禍を機に広まっているオンライン留学は、現地に行くことはできないけれども、人との交流を通じてその文化・価値観を知ることができる手法であることに間違いはない、と感じた次第です。

所感

オンライン留学には、国際教育分野において大きな可能性が秘められています。
今までは経済的・地理的制約のために海外留学をあきらめざるを得なかった人にも、オンライン上で学習環境が整備されることで、高等教育を受けられる機会が担保されることになれば、社会は豊かになるのではないかと感じました。
もちろん、現地での留学、オンライン留学のどちらにも優れている点があり、ポストコロナ時代には、目標によって、留学の方法を使い分けられることが重要となるでしょう。
だからこそ、プログラムの企画・運営に携わる身として、新たな手法に目を向け、検証する必要があることをひしひしと実感しました。

今回の記事はオンライン留学に関する個人の所感がメインでしたが、これから学習効果の測定方法等にも注目し動向を追っていきますので、今後の情報をお楽しみにお待ちください!

参考文献

Yıldırım, S., Bostancı, S.H., Yıldırım, D.Ç. and Erdoğan, F. (2021), "Rethinking mobility of international university students during COVID-19 pandemic", Higher Education Evaluation and Development. https://doi.org/10.1108/HEED-01-2021-0014