大学職員の生活改善ねた

大学職員が有志で集まり、日々の仕事に役立つ情報を発信、共有していきます。仕事に直結するもの、ガジェット情報、日々の雑感、など

コロナ禍における外国人留学生への対応

管理人Oです。

9月も今週で終わり、2021年度も折り返しに差し掛かりますね。
地域によっては年度初めから感染拡大防止のための行動制限があったりと、学生・教職員はじめ大学関係者の方々には、気を遣う対応が求められたことと思います。
年度後半には感染状況も落ち着き、ある程度の制限緩和が進むことを一大学職員として願っております。

さて、今回は、私が担当する業務の中で新型コロナウイルス感染症の拡大に最も影響を受けた『外国人留学生への対応』について経験をまとめ、留学生担当職員の今を記事にして共有させていただきます。
ちなみに、なぜこのことを記事にしようと思い立ったかと言いますと、9月21日付で文部科学省から「外国人入学志願者の受験機会確保の徹底について(通知)」が通知され、日本国外にいる外国人入学志願者への対応、そして、入学試験合格後の授業参加への配慮を検討することが大学に求められる状況になっていることから、経験を共有することにより、他大学でも情報が活きると感じたことが大きな理由です。(参照:文部科学省、「外国人入学志願者の受験機会確保」について全国の大学に通知 - 大学ジャーナルオンライン

新規渡日者の入国条件(2021年9月27日現在)

大学によっては、元々は外国人入学志願者に対して、来日して入学試験を受験することを課していることも少なくないでしょう。
事実、私の属する大学では、一部の専攻を除いて、受験者は試験会場に足を運び、物理的にその場にいることが前提条件となっています。

では、受験のための入国は認められているのでしょうか。

2021年9月27日現在、全世界の国・地域からの新規入国を可能とする措置は停止されており、特段の事情がない限り入国は認められておらず、現状、受験のための日本入国は認められていません。(参考:国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について|外務省
本学では私費外国人留学生に加えて国費外国人留学生も積極的に受け入れており、関係省庁が調整役となる後者については、12月末までかけて順次入国できる見込みとの連絡がありました。
しかしながら、私費外国人留学生については未だ入国可能時期が読めない状況にあります。

入学試験対応

上述のように新規渡日が困難となっている状況では、冒頭に紹介した文部科学省からの通達のとおり、情報通信技術(ICT)を駆使した対応を検討せざるを得ません。
本学では、外国人入学志願者からの受験希望の有無に応じて対応を柔軟に検討してきました。
例えば、2021年度入学の博士課程医学専攻入学者選抜試験においては、元々は日本入国を前提条件として試験を実施することを明記して募集要項を公表しておりましたが、日本入国が困難な外国人入学志願者から受験申込があり、専攻長・所属教室との対応検討の後、全学的な入試機構会議の議を経て、募集要項に入国困難な志願者に対してはビデオ会議による面接を実施することを追記し、対応することとなりました。

このように、調整等に手間がかかることは否めませんが、外国人入学志願者に対しても学習機会を確保するという観点に立てば、ICTを駆使することによって入学試験を受けられる環境を整えることが、私たち大学職員に求められていると思います。

入学後の対応

無事に入学試験を受験し合格したとして、その後の学生生活はどうなるのでしょうか。
また、外国人留学生の生活支援を行う職員の役割は、入国できていない学生に対してはどう変わるのでしょうか。

現在、私は大学院3専攻を含む医学部に配属されており、その職務として、医学部に在籍する外国人留学生への対応を担っています。
今年度、私が対応する外国人留学生の中には、大きく分けて私費外国人留学生・国費外国人留学生・JICA長期研修生の三つの異なる立場の学生が存在します。
教育を受けるうえでの違いはないですが、それぞれ学資負担者が異なるほか、大きな違いとして、入国までの各種手続きに関する協力者の有無があります。

私費外国人留学生については、学生本人及び家族等が日本入国の調整をすることが原則であり、大学職員及び、受入れ予定教室の教職員による支援を強く求められることが多い印象です。
一方、国費外国人留学生については、現在は文部科学省の関係部署が入国関係書類の準備・旅行券等の手配を担っており、私費外国人留学生に比べると、入国の調整に関する負担が少ないと言えます。
JICA長期研修生も同様で、JICAによる調整が入るため国費外国人留学生と同等の負担の少なさであると言えるでしょう。
このように、私が担当する職務では、三者三葉の立場の外国人留学生が存在し、それぞれの状況に応じた対応が求められています。

例えば、大学院博士課程に在籍する私費外国人留学生の一人は、2021年4月に入学したが日本入国ができず、母国から本学のLMSに接続して授業を受けています。
もちろん座学だけではないため、研究に関しては、ビデオ会議ツールを活用して指導教員らとの打合せを定期的に実施しています。

今までは国内にいる外国人留学生を対象に、留学生担当として生活支援を担当してきましたが、このように物理的にいない留学生に対する支援をどのように行えばよいか考える機会が多くありました。
(なお、本記事で挙げた国費外国人留学生及びJICA長期研修生については、日本への入国ができていない学生らは本年10月入学のため今回は割愛させていただきます。)

担当として外国人留学生と連絡を取るうちに気づいたことは、次の一点に尽きます。

外国人留学生は、日本人学生以上に、正確かつ最新の情報が手に入らないもどかしさを抱えている

コロナ禍により対応が刻一刻と変化している中で、異国の情報を学生一人の手で収集することは困難であることは想像に難くありません。
留学生担当として支援できることは、日本国内の状況、そして大学の対応を主として情報をまとめ、日本に入国できていない学生に対して情報を提供することだと改めて認識させられました。
また、情報提供以外にも、こまめに連絡を取ることで、学生の状況を知り、少しでも不安を取り除くことに繋がるのではないかとも感じました。

以上、外国人留学生への対応に関する一大学職員の所感でした。
お構いなければ、読者の皆様のご所属ではどのように対応されているか聞かせていただけると幸いです。

 

【管理人O】

建学の精神に思いを馳せてみる

管理人Iです。本日は短めの雑感をお届けします。

 

皆さんは自大学の建学の理念・精神に関心を持たれたことはあるでしょうか。

おそらく建学の理念・精神の言葉や意味についてはご存じのことでしょう。

 

では建学の理念・精神がどのような背景で生まれたものかをご存じでしょうか。

私が勤務する大学の、建学の精神の由来について調べてみました。

学園創設者のY氏は貧しい家に生まれ、高校を卒業後、職人、銀行勤務を経て、とある商店に入社。経営危機に陥っていたその商店の経営再建に尽力し、総支配人となりました。その後も様々な会社を興していった敏腕経営者でした。時代は昭和に入り、自身が手にした利益を社会に貢献する方法として私財を投じ学園を創設したそうです。学園創設から10年ほど経ったある日、有頂天にあったY氏に対し、とある財閥の方がお叱りのお言葉としてかけた言葉が本学の建学の精神の言葉になっていることが分かりました。建学の理念・精神は創設者の思いから生まれたものだと思っていたので、他の方から頂いたお叱りの言葉が建学の精神となっていたことはとても意外なエピソードでした。

 

建学の精神・理念に関しては大学によって様々なエピソードはあるでしょう。しかし共通していることは、建学の祖は大いなるチャレンジャーであることではないでしょうか。いまより貧しく、また戦争などによって混乱していた社会において、未来の人材育成、社会貢献のために奔走し、私財を投じながら、学園・大学が創設されたことに改めて尊敬の念を感じずにはいられません。

 

しかし、創設者の思いやチャレンジとは裏腹に、現在を過ごす私たちはチャレンジができているでしょうか。ルーティーンの業務を何となくこなすことに終始していないでしょうか。現在自分が大学で仕事ができているのは創設者の教育にかける熱い思いやチャレンジがあったこそ成り立っているものであることを知れば、チャレンジをしてみようという気持ちになれるかもしれません。

建学の精神・理念や建学の祖に思いを馳せ、私もチャレンジを続けられる人材でありたいと思います。

 

興味を持った方はぜひ、自身の大学の創設の歴史や創設者の歩みを調べて見られると面白いかもしれません。

 

【管理人:I】

 

 

変革を起こす組織が持つ要素②:ブレイントラスト

管理人Oです。

実は私、今年に入って大行政管理学会に入会したため、先日の定期総会・研究集会には初めて参加しました。それだけでなく、大学行政管理(university administration management)に関する学会参加自体が人生初でした。
総会・研究集会では、得た気づき・学びが多かったことはもちろんのこと、管理人Iさんの言葉を引用させていただいて、"大学職員として学び続ける必要"を再認識できるよい機会に恵まれました。(管理人Iさんの記事「大学職員として学び続ける必要性」はこちらから)

さて、人生初の学会参加に関する感想はここまでとし、前回の私の投稿で予告したとおり、今回の記事では、変革を起こす組織が持つ要素の2つ目として学んだ内容を紹介いたします。
前回の記事同様、大学業務そのものからは少し離れた内容ですので、予めご承知おきください。

個々の創造力を協働的に融合させるための仕掛け

本ブログを読んでいただいている皆様の年代にはバラツキがあるかと思いますが、日本では1996年に公開されたCGアニメーション映画「トイ・ストーリー」は誰もが耳にし、また、視聴された方も多いのではないでしょうか。
この「トイ・ストーリー」を世に生み出した会社Pixar Animation Studios(以後、「ピクサー」と呼びます)。
今回注目する要素は、ピクサーの共同創設者Ed Catmull氏が、今でも映画製作において大事にしている、チームを機能させるための仕掛けの一つです。

Ed Catmull氏によると、ピクサーでは、トイ・ストーリー制作時から有機的に組織された専門家集団があり、この集団がピクサーの名だたる映画を支える必要不可欠な要素となっているそうです。
その集団こそが、今回紹介する要素「ブレンイントラスト(braintrust)です。
Ed Catmull氏は、彼の著書Creativity, Inc.: Overcominig the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspirationにて、ブレイントラストとはどのようなものか次のように述べています。

ブレイントラストとは、卓越した作品づくりに向けて、妥協を一切排除するための仕組みだ。スタッフが忌憚なく話し合いをするための要となる制度で、およそ数カ月ごとに集まり、制作中の作品を評価する。その仕組みはいたってシンプルだ。賢く熱意あるスタッフを一堂に集め、問題の発見と解決という課題を与え、率直に話し合うよう促す。正直になることが義務のように感じられる人は、率直さを求められると多少気が楽になる。率直な意見を述べるかどうかを選ぶことができ、実際に発言すると、本音である場合が多い。ブレイントラストは、ピクサーで最も重要な伝統の一つだ。絶対確実な仕組みではない。ときには率直になることの難しさが際立つだけの場合もある。だが、うまくいったときの成果には驚くべきものがある。ブレイントラストは、制作現場のムードまで変えてしまうのだ。

引用元:ピクサー流創造するちから 小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法(邦訳:石原薫)

Ed Catmull氏曰く、ピクサー社内向けの試写会のために出来上がる最初の試作品は、すべて『目も当てられないほどの「駄作」』であり、それを面白くすることが、ブレイントラストの仕事だという。
ブレイントラストのメンバーは、ピクサー内の監督・脚本家・ストーリーの責任者など様々な立場のスタッフで構成され、また、よい作品を生み出すために、メンバーには『物語を語る才能』『率直さ』を求めているとのこと。

ピクサーでは、最初に脚本絵コンテを作成し、仮で音声・BGMをつけて編集し、リールと呼ばれる映画の完成イメージが作られるそうです。
ブレイントラストは、映画製作チームが試作したリールを観て、ストーリーに真実味が感じられない箇所、改善できる箇所、全く物語に効果のない箇所などについて議論をすることにより、映画の本筋で弱く感じる部分を指摘、改善策について提案・助言をする役割を担っています。

ここで特徴的なのが、ブレイントラストには、改善策を提案することはできても、試作品に手を加える権限はないということです。
ブレイントラスト会議で提案された内容を受けてどうするかは、映画に関わる監督に一任されており、映画製作チームはブレイントラストによる批評という同じ課程を繰り返し経ることにより、傑作と評価されるような作品を作り上げるのです。

大学におけるブレイントラスト

映画作品を作るという、一見すると大学の業務と全然関係のないこの話から、私は大学が常に質のよい環境を学生・教職員・地域に提供するための組織づくりのヒントを得ました。

大学は、学校教育法第五十二条に定められるとおり、"学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること"が明確に求められています。
大学職員は、時代やその時々の大学の状況に沿ってこの目的を達成するための環境を整えることに携わる重要な枠割を担っていると言えるでしょう。
配属部署によって直接・間接の違いはあるかもしれませんが、映画製作チームのように、携わる職務の中で大学の目的を達成するための取組みを行い、学生・教職員・地域住民など大学のステークホルダーにとって価値ある体験を提供することも考えなければなりません。
その中で、『高等教育の未来を語れる』『率直・誠実』な教職員を主とするブレイントラストを構成すれば、部署・分野横断的に忌憚なく各取組みにおける課題解決策を提案し、大学の目的達成のための道筋を示すことができるのではないかと思います。

今回は、前回の投稿に続き変革を起こす組織が持つ要素に注目して、記事を投稿いたしました。
今後も、組織づくりに関する情報収集や学習は継続していきますので、共有できる情報に巡り会いましたら、随時記事にしていきます。

【管理人O】

書籍

Amazon.co.jp | Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration

Amazon.co.jp | ピクサー流 創造するちから 小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

大学職員として学び続ける必要性

管理人Iです。

先日実施されました、大学行政管理学会(JUAM)第25回定期総会・研究集会に参加いたしました。コロナ禍ですので、対面とオンラインの両方での参加が可能でしたが、大半の方がオンライン参加です。(また対面で一堂に会するようになれば良いですね)

 

全てのプログラムにじっくり参加できたわけでないので、細かい内容の感想は割愛をさせて頂きますが、今回のイベントに参加をして改めて大学職員として学び続ける必要を感じました。

大学行政管理学会はあくまで大学職員が任意で参加しているものであり、それぞれの活動範囲が定められているものではありません。しかし、学会への参加を一つのきっかけとして、自身が設定した課題やリサーチ・クエスチョンに関して研究、研究発表をされている職員の方がいらっしゃるのは尊敬しかありません。また、自身で学ばれた知識をSNSやブログ等で広く公開されている職員の方もいらっしゃり、そのアクティブさには驚くばかりです。

 

定期総会・研究集会内のワークショップで他大学の職員の方に目指す大学職員像をお伺いしました。その際に「あの人に聞けば、どんなことも答えてくれる。そんな周囲から頼られる職員になりたい」と仰られた方が何名かおられました。そのために常に情報収集を欠かさず勉強を重ねられている方の姿勢は本当に見習いたいと思いました。

 

そうした職員の皆さまに共通するのは、自己実現に向けての方向性を見出されているということではないかと考えます。「こうなりたい」という像が明確であるから、いま取り組むべきことを着実に進めていくことができられているのではないかと思います。

しかし、自己実現の方向性を明確にするのは、まずは学びが必要だと感じます。他の大学職員との交流や勉強会に参加することで、ロールモデルとなる職員と出会うことも可能です。私自身もロールモデル職員の方とお会いできています。

 

小さな学びを続けていけば自分なりの将来像も見つかるかもしれません。まずは少しずつ学びを重ねていくことが必要だと感じました。

 

大学を取り巻く環境は劇的に変化していますが、それに一番対応できていないのは教員でもなく、学生でもなく職員だと個人的には感じています。大学職員が今後担うのは次代に向けた改革の主たる実行役なのではないでしょうか。その役割変化を認識し、その為に必要な行動を重ねていける職員でありたいと考えます。

 

定期総会・研究集会の運営や発表に携われた皆様、ご参加いただきました方、事前準備も含め本当にお疲れ様でした。貴重な機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

 

【管理人:I】

 

変革を起こす組織が持つ要素①:アイデア至上主義

管理人Oです。

突然ですが、皆様はどのようなジャンルの本を読まれますでしょうか?
私は、変革を起こす人・組織のマネジメントに興味があり、書店に立ち寄る際、はたまた電子書籍をブラウズする際には、気になる書籍を購入しては積ん読本にすることが癖づいてしまっております。

今回は、久しぶりに積ん読本の一部を消化でき、その内容から持続的に変革を実現する組織の運営に関して重要なことを学びましたので、そのことを記事にして皆様に共有いたします。
記事を書く上での大きなテーマとして『常に変革を起こす組織が持つ要素は何か』に焦点を当て、今回は「アイデア至上主義」の概念について記します。

大学業務から少し離れた内容ですので、予めご承知おきください。

『全員一致の合意形成』か『最善のアイデアが勝つ』か

あなたは今、何かしらのプロジェクトリーダーを務めているとしましょう。
関係者全員が集まる打合せでプロジェクトの企画・方針を協議する中で、もしも対立しあう複数の意見が出てきた場合、あなたは妥協点を探り全員一致の合意を形成するでしょうか?言い換えれば、その場のコンセンサスを重要視するでしょうか?
または、組織の利益のために最善と思う意見を選択・採用し、全員一致の合意を得ない状態でプロジェクトを進めるでしょうか?

金融業界の話になりますが、世界最大規模の投資運用会社であるBridgewater Associatesの創設者Ray Dalio氏は、2018年1月29日にGoogleに招かれた講演の中で、以下のとおり力説しています。

www.youtube.com

合意形成を目指す限りは市場で成功できない。市場価格には全員一致の合意が組み込まれている、つまり、他者全員が考えることはすべて市場価格に反映されている。投資家や起業家として成功するためには、合意に反して『自律的に物事を考えられる人(independent thinker)』でなければならない。
また、組織として繁栄するためには『自律的に物事を考えられる人』を大勢惹きつけ、各自が思慮深い議論を交わす環境を作ることが必要である。

引用元:Principles: Life and Work, Ray Dalio, Talks at Google

『自律的に物事を考えられる人』が自由に意見を述べ、議論の場で思慮深く批評しあうことにより、組織に関わる人々が有意義な関係を築き、有意義な仕事に取り組むことを可能とする最善なアイデアを見つけることができる、というのが彼の主張で、この仕組みは「アイデア至上主義(idea meritocracy)」と名付けられています。*1

この話を私なりに噛み砕いて、変革を続ける組織として発展するには、自由な議論の中で全員一致の合意形成を目指すのではなく、組織の未来をよい方向に舵を取る最も優れたアイデアを見つけ出し、そのアイデアに基づいて意思決定することが大事だと感じました。
事実、Ray Dalio氏も著書Principles: Life and Workにて、広く万人が実践できるようこの考え方を一般化しています。

では、どのようにして組織内で「アイデア至上主義」を実現するのでしょうか。

「アイデア至上主義」を実現する極めて重要な要素として、「徹底的な誠実さ(radical truthfulness)」「徹底的な透明性(radical transparency)」が挙げられています。
「徹底的な誠実さ」は、議論に参加する全ての人が、物事の真実を探求する一心でアイデアを共有し、また、否定的なアイデアに対して建設的な議論を展開する様を表しています。
そして「徹底的な透明性」は、意思決定の上で重要なあらゆる情報が全員に開示されていること、また、議論に関わる全ての人が長所・短所を開示している様を示しています。
Ray Dalio氏は、これら2つの要素を生み出すための3つの原則的なルールがあると説明しており、それらルールをまとめると次のとおりです。

1)議論の中で率直な意見を述べること Put your honest thoughts on the table
2)思慮深い意見の相違を許容すること Have thoughtful disagreement
3)意見の相違を乗り越えるために定められた方法を順守すること Abide by agreed-upon ways of getting past disagreement

引用元:Principles: Life and Work, Ray Dalio, Talks at Google

ここまでの要点をまとめると、議論を行う際に、参加者が立場に関係なく公平・公正に率直な意見を言えること、意見の相違によって議論があらぬ方向に進まないよう参加者が許容する心構えをすること、及び議論の仕方を定めることに留意して進行すれば、変革をもたらす最良のアイデアを選択可能な組織運営ができると結論づけられます。

これらを踏まえて、大学内で活用するなら、組織の課題解決や特定事業の推進のために結成されるワーキンググループから取り入れて実践することが「アイデア至上主義」実現のとっかかりとなると感じました。
ワーキンググループはその性質上規模が小さく、全てのメンバーが発言する機会が多く、また、議論の進め方を統制しやすいことが考えられるため、自由で活発な議論の場を確保しておける見込みが高く、この環境により「アイデア至上主義」を大事にする文化を醸成し、常に変革を起こす組織運営を行うための足掛かりになるでしょう。

【予告】要素②:ブレイントラスト

今回は、「アイデア至上主義」について学んだことを投稿いたしました。
積ん読本を読み進める中で、「アイデア至上主義」に加えて組織の自己検証力を高める概念を学びましたので、私の次回の投稿では、その概念に触れ2つ目の要素として記事を書かせていただきます。
その2つ目の要素とは、「ブレイントラスト」です。
次の投稿も、どうぞご期待ください。

【管理人O】

*1:meritocracyは実力主義を意味しますが、ここでは、発言者が誰なのか、どの立場の人が発言したものかによらずアイデアの質で判断する、という意味合いを含めて「アイデア至上主義」と邦訳しました。

全国大学事務職員調査を見て

管理人Iです。

先日8月4日(水)付の教育学術新聞内での投稿が興味深かったので、そのご紹介と感想を書ければと思います。

東京大学大学経営・政策研究センターが行った、第2回全国大学事務職員調査の結果を受け、東京大学大学院教育学研究科・准教授・両角亜希子先生が記事を書かれています。

本調査は2010年に第1回(5909人回答)、2021年2月に第2回調査(1983人回答)が行われました。

2021年2月調査の単純集計はこちら↓

http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/2021%20univ-staff%20survey.pdf

詳細な分析は今後公表されるようですが、注目したい数値に関してご紹介します。

①職員の仕事に関する意識について

・仕事について、やりがいがある、創意工夫が必要とされる、自分の能力や適性が生かされている、についての意識は2010年調査から低いまま

②職場の雰囲気について

・休暇を取得しやすい:2010年調査より改善されている

・上司は信頼して仕事を任せてくれる、自分の意見や提案を言いやすい、という項目は減少

③将来について

・大学職員を続けたい、現在勤務する大学で働きたい:2010年調査より減少

④大学職員という仕事を選んだ理由

・学校・教育業界に関心があったから、地元で働けるから、安定しているから:ともに2010年調査より増加

⑤人事評価制度に対して

・能力や適性が生かされた人事異動が行われている、一定のキャリアモデルが示されている:2010年調査時点と同様に低い評価のまま

 

その他の項目もありますが一部を抜粋しました。

こうした結果について、両角先生はこの10年で大学職員はあまり変化をしておらず、期待されている方向に向かって変化しているエビデンスが見いだせないとして、危機感を感じている、というコメントをされています。

 

【考察】

今回ご紹介した調査結果は一部ですので、改めてご紹介できればと思いますが、

個人的には

・「大学職員を続けたい」という項目が低かった

・人事評価制度に対して不満を抱えている割合が高めであること

に興味を持ちました。大学という組織で働いていくなかで人事や評価制度に不満を感じることがあり、それが大学職員を継続していくマインドを下げている、という仮説が立てられるのかもしれません。また、「業務のスクラップ・見直しが適宜実施されている」という項目も評価が低かったことから、業務環境の改善が思うように進んでいない現状も見ることができます。職員のモチベーションがうまく上げられていない職場環境になりがちである、という言い換えもできるかもしれません。

人事制度の在り方や業務の見直しが積極的に行われる大学職員組織を作っていくことが、今後生き残っていく大学なのではないでしょうか。今後は大学職員も専門職採用が進むとされていますので、大学職員の在り方、働き方も転換期を迎えていると言えます。

 

今後も大学職員の意識や働き方に関する情報提供を行っていきたいと思います。

 

【管理人:I】

 

 

 

そもそも大学の存在が知られていない!?-レピュテーション・マネジメントの重要性-

管理人Oです。

早速ですが、読者の皆様が所属する、または関わりのある大学は、国内外問わず広く一般の方々に知られていますでしょうか?
日本でも海外でも認知度が高い大学もあれば、日本での認知度の高さとは裏腹に、海外ではあまり知られていないという大学もあるのではないでしょうか。
日本では認知度が低いけれど、海外では広く知られているというパターンもあるかもしれません。

今回の記事は、大学の認知度向上のために活用できる考え方「レピュテーション・マネジメント」をテーマに記事を投稿いたします。
本記事は、2021年7月13日(火)・7月20日(火)に開催された、九州大学SHAREオフィス(Strategic Hub Area for top-global Research and Education - Kyushu University)主催のプログラム「大学のためのレピュテーションマネジメント」に参加して学んだことを基に書いておりますので、ご興味のある方は九州大学SHAREオフィスのホームページ等ご覧いただければ幸いです。(参照:https://www.isc.kyushu-u.ac.jp/intlweb/web/wp-content/uploads/2021/06/RM%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BCFinal.pdf
今回は事例紹介的な内容となりますので、その点ご了承ください。

レピュテーションとは?

九州大学SHAREオフィスでは、レピュテーションを次のように定義しています。(参照:http://www.share.kyushu-u.ac.jp/uploads/2017/08/0f7ca8343b60e4706794a83808ddf7ba.pdf

(本学に対する)学外者の主観的なイメージの集積、すなわち評判である。 

引用元:九州大学レピュテーションマネジメント戦略(2017.3.13)-国際的なレピュテーションを向上させるために-

また、レピュテーションは大学構成員のモチベーションに影響すること、学内外のステークホルダーの行動に作用することが説明されています。
つまり、大学の「評判」を向上させ、学内外のステークホルダーの反応を好意的なものとしていくことその考え方・手法が「レピュテーション・マネジメント」だと言えるでしょう。

大学の基本理念とレピュテーションの関係性

大学のレピュテーションを向上することが重要であることは想像に難くないと思いますが、では何を基準としてその方向性を検討すればよいのでしょうか。

九州大学では、「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた世界最高水準の研究教育拠点となる。」という基本理念を掲げられています。(参照:憲章・基本理念 | 基本情報 | 九州大学について | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)
デロイトトーマツグループにコンサルティングを行ってもらい、この基本理念を基として、「研究を中心としたレピュテーションの向上」を戦略目標とするレピュテーション・マネジメント戦略を策定されたそうです。

レピュテーション・マネジメント戦略

実際に、レピュテーションを向上させるための九州大学の取組みを紹介すると、次のようなレピュテーション・マネジメント戦略を打ち立てて、SHAREオフィスのレピュテーション・マネジメント・ユニットを中心に活動されてきたとのことです。

戦略1:強み・特色の徹底したアピール➡強い研究分野・特色ある研究分野を徹底的にアピールする
戦略2:ブランディング➡「九州大学といえば〇〇」という共通のイメージ(九大ブランド)をつくる
戦略3:インターナルコミュニケーションと連携の強化➡全学的なインターナル・コミュニケーションと連携を強化し、発信情報の発掘、豊潤化、多様化を図る
戦略4:ステークホルダーの優先度への配慮➡ターゲットとなるステークホルダーの優先度に配慮する(当面の優先順位は国内外の研究者および学生)
戦略5:ステークホルダーの分類による戦略的情報発信➡セグメント化したステークホルダーの関心やニーズに適する情報を様々なチャンネルや方法を用いて発信する
戦略6:KPIの設定等によるRM(レピュテーションマネジメント) 向上の検証➡KPI等の設定により、戦略実行後のレピュテーションの変化を把握し検証する。また検証に基づき戦略の見直しを行う

引用元:九州大学レピュテーションマネジメント戦略(2017.3.13)-国際的なレピュテーションを向上させるために-

 これら戦略に基づいてレピュテーション向上に取り組まれ、また、国際社会におけるレピュテーションの向上を実現するために、大学ランキングへの対応、複数大学から成るコンソーシアムへの参加、国際会議の招致等も行われたようです。

所感

今回「大学のためのレピュテーションマネジメント」に参加して、大学の評判を向上するための考え方を学びました。
中でも、九州大学のレピュテーション・マネジメント戦略を策定するためにコンサルティングを担当したデロイトトーマツグループの方からの話を通して、大学のレピュテーションに関わる2大要素(「大学の本質的な提供価値の向上」および「大学の持つ価値の認知・評価の向上」)の関係性について知見を深められたことで、担当する業務によって生み出す価値、そして、その業務に基づいた広報の在り方を、国際社会における大学のレピュテーション向上というより高い視座から考えられるようになったと感じました。

今後も、大学が持つ価値を戦略的に発信して人々に伝える手法を学び、このような場で情報共有していきたいと思います。

【管理人O】